天理市ノムギ古墳発掘調査 現地説明会資料(2003年9月7日)


調査機関奈良県立橿原考古学研究所
所在地天理市佐保庄字ノムギ塚
調査期間平成15年4月16日〜現在調査中
調査原因県道天理環状線建設工事
調査面積1,200u(平米)
主な遺構ノムギ古墳後方部周濠
主な遺物古式土師器(布留0式、東海系、山陰系など)・須恵器など
現地説明会2003年9月7日(日) 午前10時30分から午後15時(説明は1時間毎に行います。)


1.はじめに
 今回の調査は、県道天理環状線建設に伴い実施しています。調査区は、大和古墳群北端に位置するヒエ塚古墳とノムギ古墳に挟まれた場所にあたります。いずれの古墳も、今まで小規模な発掘調査が実施されたのみで、その実態はあまり知られていませんでした。まず、今回の調査実施前のこの2つの古墳について分かっていたことを簡単にまとめておきます。

【ヒエ塚古墳】天理市萱生町ヒエツカ所在
 古墳の形態と規模(現状) 前方後円墳:全長130m 後円部径:60m 同高:10m 前方部幅:55m 同高:7m
 墳丘は後円部南側の一部及び前方部北西端が削平されている他は、比較的良好に残っている。また、周濠は北側で幅30mの水田区画にその痕跡を留めていることから盾形の周濠を有すると考えられる。出土遺物に関する情報がないため、築造時期については不明な点が多いが、墳形が中山大塚古墳に類似することから、古墳時代前期前半の可能性が示されている。なお、平成14年度には古墳の北側を東西に走る農道拡幅に伴う調査が実施され、同古墳の外堤とそれを南北に縦断する溝が検出されている。この溝からは、弥生〜古墳時代前期の土器が多数出土しているが、これらの遺物がこの古墳の築造時期を示すものかどうかは検討を要する。

【ノムギ古墳】天理市佐保庄町字ノムギ塚所在
 古墳の形態 前方後方墳
 従前は、全長63m、後円部径40mを測る前方後円墳と考えられていたが、平成8年に古墳の北側で実施された発掘調査で、ほぼ直角に曲がる周濠コーナーが検出され前方後方墳である可能性が高まった。また、この調査では円筒埴輪や鰭付円筒埴輪がまとまって出土したことから、この古墳の築造時期は古墳時代前期後半であるとされた。
 これら従前の成果並びに2つの古墳の位置関係などから、今回の調査のポイントとなった点は次のとおりです。

(1) 2つの古墳の関係
 ヒエ塚古墳は周辺の地形並びに平成14年の発掘調査の結果、幅30m程度の周濠を有する可能性が高く、またノムギ古墳も、幅10m程度の周濠の存在が確認されている。しかし、現況では、ヒエ塚古墳の前方部西端とノムギ古墳の後方部東端の間は約20mしか開いておらず、2つの古墳の周濠がどのような形で検出されるかが注目されていました。

(2) ヒエ塚古墳の築造時期
 ノムギ古墳は出土した埴輪から、古墳時代前期後半の年代が与えられていましたが、ヒエ塚古墳については、先述のように時期を示す遺物が乏しく、今回の調査で周濠が検出されれば、そこから築造時期を示す遺物の出土が期待されていました。

(3) 古墳祭祀のあり方  前期古墳の周辺を大規模に調査したことは大和古墳群では例が乏しく、古墳築造並びに築造後の祭祀に係る資料が得られる可能性もありました。


2.調査の成果と課題
 あくまでも調査途中で得られた知見ですので、断定的なことは言えませんが、今まで明らかになったこと、あるいは現時点で可能性が高いと考えられることは次のとおりです。

(1) 今回の調査では、ノムギ古墳の周濠の南東コーナーと墳丘の南東コーナーが検出されました。このことにより、ノムギ古墳が前方後方墳であることが確定しました。

(2) 当初の予想に反し、検出された周濠はノムギ古墳のもののみであり、ヒエ塚のものは検出されていません。これは、ヒエ塚古墳の周濠が、今回の調査区まで及んでいないか、若しくは周濠が浅く既に削平されてしまったという2とおりの解釈が可能です。この点については、今後、調査を進める調査区の成果を含め検討すべき点です。

(3) ノムギ古墳の周濠は開削から6世紀後半までの間に何度かの改変がなされています。簡単にその概略を記すと
  @ 周濠北側に東から土器を多量に投棄し埋め戻す。
  A @との時期的な前後関係は不明であるが、周濠内の南側に平面円形の積み土?を行う。
  B A築造後、土師器を多量に含む土で周濠中央から南半分を埋め戻す。
  C 周濠中央部分に南北に幅の狭い溝を掘る。(6世紀前半)
  D 周濠中央から北側にかけて周濠を掘り直し、その南端付近に須恵器堤瓶を置く。(6世紀後半)
  E 以降、13世紀後半頃までかけて自然埋没する。
 これら、周濠内で確認された行為は、いずれもノムギ古墳の当初の周濠の範囲内で行われていることから、古墳の存在を強く意識して行われたものであると考えられます。これらの行為のすべてが、古墳の祭祀に伴うものであると断定できませんが、前期古墳の中には築造後、相当期間を置いて祭祀行為がなされる場合があります。

(4) ノムギ古墳の築造年代に関する問題
 当初の周濠埋土からまとまって出土している土器は、おおむね布留0式のものに限定されます。この土器の時期をもって、ノムギ古墳築造時期とすればノムギ古墳の築造は古墳時代前期前半ということとなりますが、先述のとおり平成8年の調査では、古墳時代前期後半の円筒埴輪が出土しているなど築造時期の決定に関しては慎重に対処していきたいと考えています。

ノムギ古墳全景
写真1 ノムギ古墳全景(上空から)


周濠北側の埋没状況
写真2 周濠北側の埋没状況(北から)


周濠中央付近の土器出土状況
写真3 周濠中央付近の土器出土状況(西から)


 本資料は、奈良県立橿原考古学研究所近江俊秀・鈴木雅美が作成した。